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理解するのに、数秒掛かった。
「……伊東…京一郎?…って、あの?」
「こら、呼び捨てにするんじゃない。失礼だろう、先生に対して」
「いえいえ、結構ですよ網走先生。息子さんに逢えただけで光栄です。可愛らしい顔付きをしていらっしゃるんですね」
正座の、やけに姿勢のいい黒服のその男は、にっこりと愛想のいい笑みを浮かべて言った。
「いやいや、こんなのは見た目だけでな、そりゃあもう生意気なんだ」
孝平も屈託なく笑い、返答する。秀の頭の中には複数の疑問符と感激府が浮かび上がっていた。
まず、一つ一つ解決していこうと、秀は一つ目の疑問を孝平に投げ掛けた。
「訊きたいんだけど…父さん、伊東先生と友達だったっけ。なんか、騙されてるんじゃない?」
「そんな訳あるか。彼は本物の伊東京一郎先生だぞ!!今日知り合ったんだ」と間髪入れず孝平は答える。
秀は続けて二つ目の疑問をぶつけた。
「何処でどんな風に知り合ったのさ?父さんみたいな売れない貧乏作家と有名なベストセラー作家が」
「実は」伊東が孝平の替わりにこう答えた。
「私、網走先生のファンなんです。なので私から話し掛けてみたのですが」
何を言ってるんだ、この男は。秀は真に受けようとはしなかった。秀の態度は、いよいよ攻撃的になる。只の作家に成り済ますのとは訳が違うのだ。
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