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「有り得ませんね。父のファンだというなら、父が今までに書いた小説のタイトル、全部言えるんですか?」
孝平の書いた小説は没作品になったものもある。余程のマニアックではないと知らない筈だ。
「ええ、言えますよ」伊東はまたも笑った。だが先程とは違う、挑戦的な笑みだ。
笑うと細く吊り上がった目がより一層細くなる。何処か狐に似ていた。
「処女作は〔鬼ごっこ〕、二作目は〔霧〕、三作目は〔彼女は死んでいる〕、四作目は〔カルマ〕。どうでしょう、これで信じて頂けますか?」
確かに全て、当たっていた。だがこれで、簡単には信じる秀ではない。秀は、もし偽者なら言われて一番困ることを口にした。
「いや、まだ信じられませんね。もし貴方が本物の伊東京一郎だというのなら、証拠を見せて下さい」
伊東は顔付きを変えて「例えば?」と尋ねた。
「例えば、そうですね…今までの作品の、原稿だとか」
これで引き下がるだろう、と秀は思っていた。だが伊東は少しの沈黙の後、いきなり立ち上がって言った。
「いいですよ。仕方がありません、では私の家に来て頂けますか?原稿は家の書斎にあるので」
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