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Fell off
本州最東端のマリーナ。
接岸され、穏やかな波に揺られながら身を休めるヨット達。そして、まだまだシーズン前で人気の少ない海水浴場。
それらを眼前に望む大学の、学食を兼ねたカフェスペースのテラス席で、若い男女四人が談笑している。
彼らはここの学生で、今は空いた時間を潰すために来ていた。
昼食時を過ぎている事もあり、他の利用客――学生や一般の利用者――の姿は無い。
今彼等が話している話題は、この地に伝わる説話『延命姫』について。
この大学の在るは地域に伝わる説話であるが、地元民には意外と知られてはいないものだった。
『延命姫』の大まかな話はこうだ。
平安の時代のこと。さる高名な陰陽師が、都の政争に巻き込まれ身の危険を感じて故郷へ逃れてきた折に、この地方一の長者の家に身を寄せる事になった。この長者の娘が延命姫である。
この姫は、生まれながらにして、顔の半分が痣で覆われていたという。
そして、陰陽師を一目見て惚れてしまった延命姫が結婚を申し込み、二人は結婚した。
たが、そしてしばらの後。陰陽師は延命姫を捨てて逃げ出しまう。
それを知った姫は後を追い、最後は陰陽師に騙され断崖から身を投げて死んでしまったという。
その後、姫の供養がなされるまで、海は荒れに荒れたのだそうだ。
彼らの一人が語った、どこか物悲しく恐ろしくもある『延命姫』の物語を一通り聞き終えた残りの学生達は、眉をひそめ表情を曇らせていた。
「マジこぇな……」
「あの安倍晴明が逃げ出すとかって、ドンダケだよ」
「そのアベの何とかって人ってさ、鬼とか退治してた人なんでしょぉ? そんな人が逃げ出すって、そのお姫様ってよっぽど怖かったんじゃない?」
「まぁなぁ。でもやっぱアレだろ。かくまってやった上に、一度結婚しといて『やっぱやめた』って捨てられたら、そりゃあキレんだろ、女はさ」
「あー……あたしもキレるかも」
四人が思い思いに感想を話していると、そこへケーキやカップを乗せたトレイを持った女生徒が、一人やって来た。
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