3人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
「ねぇ、それって『延命姫』でしょ?」
そう女生徒に話し掛けられ、四人は一様に苦笑を浮かべた。
「あー……よ、よう! 花島(はなしま)。もしかして、この話……知ってるのか?」
四人の内の一人が、ぎこちなく挨拶を返して、恐る恐る尋ねる。
すると花島と呼ばれたその女生徒は、嬉しそうに笑顔を浮かべ、「うん、知ってるよ」と答えると、それを聞いた四人の学生達から同時に小さな溜息かこぼれた。
「でもね、なんで姫が男を追いかたか、って言うと、怒ったからじゃ――」
女生徒が四人の反応に気付かず、話の輪にに混ざろうとした途端。
「あー! ストップ、ストップ!」
「なぁ、ろそろ時間じゃね!?」
「あーホントだ! ゴメンね、千(ゆき)ちゃん! 私達もう行かないとっ!」
「じじゃあ、またなっ!」
四人は白々しい言い訳をし、慌てて席を立ってしまった。
一人取り残された形になった女生徒――花島 千(はなしま ゆき)。
振り返り引き止めようとしたのだが、潮風に乗り耳に届いた四人の会話会話が、彼女の開いた口を閉じ、言葉を飲み込ませた。
「いやぁ、危なかったぁ」
「また台無しにされるトコだったな」
「ネタバレクイーン健在、みたいな?」
「まぁ、悪いコじゃ無いんだけどねぇ……」
――またやってしまった。
そんな後悔のこもった深い息を一つ吐き出すと、千は無人になったテラス席にトレイを置き、独り椅子に座った。
「んー……なんでいつも、こうなるかなぁ……」
ぶつぶつと不平を漏らしつつ、チョコレートケーキの端をフォークですくい、それをへの中へと運んだ。
「ん……おいひぃ……」
チョコレートクリームの程良い甘味が口の中に広がり、カカオの香りが鼻を抜けてゆく。
確かに美味しい。
けれど、いつもと変わらない筈のほのかな苦味が、今はやけに強いような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!