誠の文字

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「昔は肺結核が流行ったな」 後部座席に座っている80歳にもなる、おばあさんが言った。 ディサービスを利用してくれている、お年寄りの送迎中だった。 「あんたみたいな若い子は知らんわな~」 「名前ぐらいは聞いたことはありますよ」 私は、普通に答えた…。 本当は、どれほど恐ろしいか知っている…。 肺結核… 今では、そう呼ばれているが… 昔は、労咳と言われ『死』の病と恐れられていた。 あの人の病も、肺結核だった…。 利用者さんを施設へ届け、車を駐車場に止めた。 運転席で大きなため息を着いた。 自分の中に止まったままの時間…。 あれから五年も経つんだね…。 今の自分があるのは貴方のおかげだよ。 伝えたい事が沢山あるのに… 会えない………。 誰も信じてくれないような出来事だけど。 確かに…それは起こった…。 そんな事を考え車を降り、施設内へ入って行った。 いつも通り、仕事を終え自宅へと帰宅する。 そこから家までは、20分ぐらいで着く。 自宅に着くと荷物を部屋に置きリビングへ行った。 誰も居ない家…。 当たり前か…。 両親は、私が小さい頃に死んだ。 私の目の前で……。 その事が原因でずっと、喋る事が出来なかった。 育ててくれた祖母にすら、頑なに拒んだ。 でも、あの人に出会って変わった……。 『誠』の文字を背に己の意志を貫いた…。 貴方の生き様を… 総司………。 貴方の声が聞きたい。
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