0人が本棚に入れています
本棚に追加
約束の公園。
駅前の公園は街も力をいれているのか、中央にある噴水を中心にイルミネーションが飾られていて、気持ちを落ち着かせる場所としては恰好(かっこう)の場所だった。
噴水のベンチにドサッと腰掛け、うなだれる俺。一気に緊張が解けた気がした。
可奈は俺の前で腕を組んで立っていた。
「で、仕事は?」
「………あ!」
だが俺は可奈の質問にガバッと首を起こす。
やっちまった。プレゼント置きっ放しだ…。
「お、置いてきた…。これって、いいのか?」
目をつむり、両手で顔を覆う。ダメだって言われたくないから、ついそうなった。
俺にとってサンタクロースの仕事は好きではないが、プライドをもってやっていることではある。
失敗なんてしたくない。今までずっと、俺は成功してきたんだ。
「ダメじゃないんじゃない?プレゼントを置いてくるのが、私達の仕事だもの。警察に見つかったのは拓郎じゃなくて泥棒なんだし」
一瞬、「ダメ」という言葉に心臓が反応したが、その後の否定の言葉で落ち着いた。
「よ、よし。なら、仕事は終わった。さっきのが最後だから」
「そう。じゃあ拓郎の勝ちね。私、プレゼント残り1個だけ届けれなかったもの」
「え?」
俺は自分に似合わずきょとんとなった。
可奈が仕事を残してくるのなんて始めて聞いた。たとえ負けたとしても、最後まだ終わらせてくるのが普通だし、それが可奈ならなおさらだってことも俺は知ってる。
それこそ時間だってあっただろうし、俺のとこに偶然出くわしたのだって余裕があったからとかじゃ…あれ?
「可奈、なんで泥棒がいたって知ってるんだ?」
「え」
何気なく聞いた質問が、可奈の顔を急に真っ赤にさせた。
え?なんで?
「ぐ、偶然よ偶然!偶然、道を歩いていたら拓郎の叫び声が聞こえてきて、なにかと思ったらアパートの2階からどったんばったん気こえてきたから、とりあえず警察を呼んで騒ぎにしてもらおうと思っただけ!!」
「………」
…まさかの。可奈が警察を呼んでくれていたのか…。
ガクッ、と俺はさらにうなだれる。
「た、拓郎?」
「あ、ありがとう…」
もう二度と言うことはないと思うが、俺は最初で最後になるだろう感謝の言葉を呟いた。
正直負けた気がしてお礼とか言う気にはなれなかったが、可奈の今日の行動に、言葉を心から押し出されたような感じがした。
最初のコメントを投稿しよう!