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「メリークリスマス、拓郎!今年こそ、勝ちに来たわよ!」
「………」
言葉も出ない、とはこのことだ。
なんてったって
幼馴染の女、中井可奈(なかいかな)が、ミニスカートのサンタコスプレをして、屋根の上に登ってきたのだから…。
黒髪ボブ。色白。サンタコス…。
というか…、俺より高い屋根のところにいるから
「パンツまるみ…」
「黙れ!!」
「ごふぁッ!」
指を差した俺の腹に飛び蹴りがお見舞いされる。
くそ、それでもちゃっかり見てしまった自分が憎い。ファンシー、いちご柄。
「あ、あぶねぇ…」
屋根から落ちるギリギリのところで堪えて、なんとか落ちずにすんだ。
が、状況は最悪だ。
「どうやらここが最初のようね。偶然。私はここの隣よ」
中井可奈は、俺と同業なのだ。
さらに、何世代も前から代々受け継いできた家系ぐるみのライバルという立場でもある…。
元々は協力し合っていたらしいのだが、どこからかでこじれてしまったらしい。
しっかし面倒だ。
「隣なら隣で仕事しろよ。俺はここが仕事だ。あんまり騒がれると困るんだけど」
「なによその言い方!まるで私がうるさい人間みたいじゃない!」
その通り。…とは言わない。言ったら余計うるさくなりそうだから。
「あ、はあ…」
「まあいいわ。今年はここからスタートで、ゴールは駅前の公園にしましょ」
「あ、はぁ…」
「じゃあ、健闘を祈るわ!!」
ガタッガタッガッタ!
おい、慣れないヒールで屋根の上を堂々と歩くなよ…。
可奈は隣の家の屋根に飛び移ると、すぐに屋根から道路に降りて行った。どうやら隣での仕事は終わっていたらしい。
そうして短時間の騒動は終わり、呆気なく去って行った彼女の足跡は、少しずつ聞こえなくなっていった。
聖夜の夜に静寂が戻る。
「今年もか…。まいったな」
俺はため息ひとつ。
去年同様免れないらしい戦いに勝つため、素早くベランダへと飛び降りた。
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