偽善と善良

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「あと1件か…。順調だな」 腕時計を確認しながら、俺は自転車のペダルを蹴る。 開始から1時間。4件でこの時間はまずまずのタイムだ。 可奈との勝負の行方は、最初の一件目の差があるから微妙だが、ひとまず追いついていることを願う。 あ、そうだ。俺の仕事は5件と言ったが、可奈も同じく5件のはずである。 俺たちの稼業の大元には霧洲(きりす)家という家系があり、そこが俺たちに毎年仕事の依頼をしている。 俺と可奈は同じ年の見習いであり、同じ成長ぶりだから、毎年同じ量の仕事を渡されているはずなのだ。 これが一人前になれば、お互い仕事の量はそのときの力量によるのだろう。…その頃には勝負とかいう前に、それで勝ち負けが決まりそうだな。まあ、絶対負けたくはないが。 「うし!」 最後の家はアパートの2階。 うーむ、電柱からの経路は電柱と屋根が離れているから難しそうだ。 なら…、これしかないか。 俺は外壁に設置されている雨樋(あまどい)にしがみ付き、壁を登り始めた。 壁にくっついてる雨樋は、腕を回し切ることもできないし、体重を支えづらい。 なんとも登りにくい…が仕方ない。 すぐ右横に目的の家のベランダが見えて来ると、俺はもう少し高く登り、できるだけ体が右へ行くよう飛び降りた。 バッ、ガシッ!! 「くっ!」 腕の筋肉が悲鳴をあげるがなんとか凌ぐ。ベランダの柵にしがみついた俺は、這い上がるように柵を超えベランダ内へ侵入した。 ほっ…、と小さく一息をついて、窓に手をかける。 鍵は、空いていた。 あ、ちなみに鍵がしまっていても開けることはできる。そういう練習もしてきたから。…が、一応言うが犯罪者ではないことを言い張りたい。これも仕事のうちだ。 鍵が空いていることに幸運を感じながら、中に人影がない様子を確認して、俺は窓をカラカラカラ…と開ける。 資料によると、既にここが子供部屋のはず。ベッドは…あったが、誰も寝ていない。留守なのか、はたまた両親と寝ているのかは分からないが、これはさらに好都合だ。 俺はさっさとベッドの上へプレゼントを置こうとする。 …しかし
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