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その式は…どう解釈すれば良いのか、分かる。答えも分かったが答える気力が私からはなくなってしまった。
「いえ、ただ…乱暴なその式はまだまだです…私は信じています、貴方ならもっと美しい式が出来る筈だ」
私はそう言い切り、怠くて半開きな目で教師の瞳を見据えた。
教室には無音が響き、教師は考えるように、鼻から息を深く吸い込み、質問する気満々なのを理解させられた。
「しかしー…答えましょう」
そう言い、机の横に置いてあった鞄を手に取り、立ち上がると皆の目を浴びながら黒板の前に躍り出た。
白いチョークを開いた左手に持ち、黒板の上を走らせると
チョークを黒板の端にコトリと置き、教室を極自然に退室をした。
授業中だからか廊下には誰一人として居らず、黒板に答えの次いでに書いた「身体の調子が悪いので、早退します」の文字を真っ当するように足音が木霊する廊下を歩いた。
背後の教室から笑い声が聞こえたが、教師の「馬鹿!!お前ら…小野上は正しく解いているんだぞ!!」と叫びとも言える声が耳に滑り込み、密かににっと笑った。
実はあの教師は元大学教授で、教授生活がキツくて普通の平凡な高校に来た人らしく、私と仲が良い講義仲間なのである。
担任教師ではないにしろ、昼休憩では職員室で弁当を囲み生徒への問題のアドバイスをしているのだ。
最初の出会いは初授業での問題の式が「間違っている」か「間違っていない」かの授業と生徒そっちのけでの言い争いであった。
間違っていると言ったのは私で、指摘して口論の勃発である。しかし腐れ縁となるだろう仲は気が合い、休み時間や休日では講義仲間となる程だ。
そんな懐かしい思いを胸の奥に仕舞い、いつの間にかついていた靴箱から靴を取り出して履くことに集中した。
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