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視界を埋め尽くした数式が掻き消えて、見えた景色は先程いた自販機の前ではなかった。
室内、屋外とも言えないこの空間。
先ず、見渡した限り上下左右真っ黒で灯りなど一つもないのに自分の姿が鮮明に日中の外にいるようにハッキリと見えて、身体を包む浮遊感も理解が出来ないのだ。
海中にいる訳でもない、呼吸に支障はなく出来るのは適度な酸素濃度だからだろう。空調も冷たくも暑くもない心地よい温かさでまるで女性の子宮内を沸騰させた。
何故こんな場所にいるかが分からない。
踏み締めれる床と呼べる物はなく、移動も出来ないため、調べる事も出来ず幾つか推測をする程度しか出来ない。
全てが現実味がなく、馬鹿馬鹿しい程に非現実な憶測の一つは『宇宙人に拐われた、ようはアブダクション』であり、誘拐。
他は死後の世界だとか妄想だとか在り来たり過ぎて思考を中断させた。
大事なのはここが何処で、自分の立場がどうなのか、だ。
ようは
「帰れるか、ですか?」
「!」
全方向から同時に聞こえたその涼やかな声、反響して聞こえた訳ではなく同時に声が重なる事なく消えたのだ。同じ波長の音に同じ波長の音がぶつかれば音は消える筈なのだが、それは起きないのは発信したのが一つか波長が違うか。
後者は有り得なく、前者を考えて言っても消えるが答えになる。ならなぜ消えなかったか。
その前に
「二三訊きたいんですが、私の立場と状況、並びにあなたの思惑及び立場を教えてください」
そう姿ない相手へとただ口にした、抵抗など出来そうにもないので先ずは立場と状況を訊いて置かないといけないだろうと判断した結果だった。
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