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「あ、流れ星」
思わず口に出てしまった言葉。
「何か言ったぁ?」
ほんのりと頬の赤い先輩が振り返る。
「独り言です。気にしないでください」
私は慌てて弁明して、フラフラと歩く先輩を追い掛ける。
「そぉ? それなら、いいんだけどさ」
酔っている先輩はキャハキャハという笑い声を上げて壊れていた。
「もう一件行くぞー!!」
「先輩っ!! 体に悪いですよ?!」
こぶしを振り上げる先輩にしがみついて、次の店に行こうとするのを阻止する。
「いいのよー。こんな体、壊れてしまえばー」
「やめてくださいよぉ!」
人の行き交う街道の真ん中で騒いでいる女二人はさぞ目立つことだろう。恥ずかしかったが仕方がない。
その後、失恋した先輩を見捨てるわけにもいかず、私は先輩をひこずるようにして公園につれてきた。
先輩はさんざん泣いて、酔いが覚めたのか、ふっきれたのか、手の甲でぐいっと涙を拭った。
「いい男なんて、まだごまんといるんだからっ! 新しい彼氏を作ってやる!」
先輩はうしっと気合いを入れて帰っていった。
「帰っちゃった……ま、いいか」
一人残された私はすることもなく、久しぶりにブランコに乗った。軽くこいで、空を見上げる。
粉砂糖をちりばめたような星空。
彼はまだあの日のことを覚えているだろうか。
高校での生活は君でいっぱいだったのに、今はやっと彼のはにかむような笑顔を思い出せるだけ。
あの流れ星も、教室も、全部思い出になってしまった。
私はブランコを止めて、ポケットから携帯を取り出した。メールの保存ボックスを開く。
何度も送ろうとして送れなかったメール。
宛先はもちろん彼の名前。
「もう一度、会いたいなぁ」
この願いは叶うことはないけれど、思い出は消えてほしくなかった。
携帯を閉じようとボタンに触れる。
送信中
その文字を見て、さぁと血の気が引いた。
「わっ! ちょっ!! まま待って!!」
キャンセルボタンを押す前に
送信完了
という無惨な四文字。
ただ今、夜中の十二時。
深夜にメール。
迷惑かなぁ……。
って、問題はそこではなくて!!
言い訳のメールを送ろうとして指を動かす。小文字を打とうとして通話ボタンを押そうとしたら、電話がちょうどよくかかり、
通話中
……泣いていいですか。てか、登録されてない人じゃないですか。
しぶしぶ携帯を耳にあてる。
「もしもし、どちら様でしょうか?」
「あ、マコ?」
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