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あなた限定の罠
イタリア料理のお店に入って、席についた時、彼の携帯が鳴った。マナーモードにしてるからバイブレータの短い音が数秒続く。
「出ないの?」
私がそう言えば、彼はやっと気づいたように携帯を取り出した。
彼の眉毛が少し持ち上げられる。一瞬、携帯を閉じようとしたが、開いてボタンをすばやく押す。
私はいつもより楽しげな彼の様子を見て、胸騒ぎがした。相手が気になる。
「……誰から?」
嫉妬深い女と思われるかもしれない。でも、聞かずにはいられなかった。
「ああ、友達」
彼は口元に笑みを浮かべながらそう答えた。私の方をちらりと見ただけで、後は携帯電話に集中している。
マナー違反、とまでは思わないけれど、私をほうっておいて、携帯をいじるのはひどいんじゃない?
ほら、久々のデートなんだから……いちおう毎日会ってるけど。
「何にする?」
おそらく不機嫌な顔をしているであろう私に気づかないのか、彼がメニューを差し出す。
私は何か言ってやろうかと思ったけど、何も言わずにメニューを受け取った。
すぐに注文を終えて、今日行った水族館での話をする。メールの相手が引っかかるけど、あまり追求するつもりはなかった。
再び鳴る、彼の携帯。彼はすぐにそれに気づいた様子で、にこにこと笑っている。私に一言断りを入れて、携帯をいじり始めた。
何が、楽しいのかな。私はこんなに不安なのに。
彼が携帯を閉じて、私の方へ向き直る。
でも、私の機嫌はなおりそうになかった。
「どうした?」
彼がそうきいてくる。
でも、答えなかった。何か、嫌なことを言いそうで口を開きたくない。
今度は私の携帯が鳴る。私もマナーモードにしていたからバイブレータが震えるだけだ。彼を気遣うことなく、携帯を開いた。
私、バカみたいだ。彼にこんなに振り回されるなんて。
――ただのアラームだよ。だまされてやんの(笑)
「バカでしょ」
「お前の限定でな」
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