ニヒリズムな彼

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彼が淋しい奴だなんて思ったことはない。彼の中には彼の考えがあって、それをちゃんと守っている。自律と言えばいいのか、孤高と言えばいいのか、いっちょまえの大人になっても彼を理解することはできない。 何となく、うらやましいような気がした。彼は一人でも生きていける、そう言うのはパズルのピースのように当てはまる。 おぼろげな記憶の中にニヒリズムという言葉が出てきた。噛みそうな言葉なのに、彼は吐息のように吐き出した。わざわざ辞書で調べたことを思い出す。 「家族のために、友達のために、恋人のために生きている、とすれば意味があるのかもしれない。死んだ後も生きていけるんだろう」 ニヒリズムな彼はかき消えそうな声を零した。 家の前の低い塀に並んで座っている俺達の影が、夕日に照らされて長く伸びている。 俺はただ二つの影を見つめた。その影は植物や塀、家やらと繋がっている。 「そろそろ、死なないといけない」 「――あの子の中で生きたくないから?」 あえて名前はあげない。家族や友達よりも、存在感を強く示す彼女――隣にいる幼馴染が惹かれていることは何となくわかった。 前に言っていた。両親を亡くした彼は、俺なら話しても自分の存在を記憶から消してくれる、と。うっすらと笑いを浮かべている様は変なことに綺麗だった。この世のものとは思えない。 そんなに昔のことでもないことを思い出して、彼を盗み見る。 彼は笑っていた。あの時と同じように。 俺は眩しいものを見るように目を細める。何も考えずに口が動く。 「生きてみたら?」 「生きているよ」 彼は機械的に答えるだけ。 表情は消えていた。
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