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ゆるゆる
藤村先輩が下宿しているというアパートの最寄り駅。
あたしはそこで携帯電話を睨みつけていた。
やっと受験も終わって、久しぶりに藤村先輩に会える。
そう思って楽しみにしてきたのに。おしゃれもしたのに。
涙で化粧がとれてしまいそうじゃないか、こんちくしょー。
昨日の夜もちゃんと眠れなくて、朝は五時に起きちゃったのに! 藤村先輩が来てほしいって言うから、初めてこの町に来たのに!
年上とか関係ない。今日という今日は、怒ってやる。
携帯電話で何度目かになる電話をする。
藤村先輩は出てくれない。
どーせ、また寝てたりするんだろうな……
でも、藤村先輩、最近大変だったって言ってたから病気になったのかな。
時々寝ながら歩くから事故にあったのかな。
どうして、
楽しみにしていたのに、心配しなくちゃいけないの。
早く来てよ……
「あれ? なっちゃん?」
「堀田先輩?」
目の前に現れたのは堀田先輩。去年まで弓道部でお世話になっていた先輩だ。確か藤村先輩と同じ大学に行ってるはずだ。サークルも一緒だったはず。
「どうしたの、こんな所で――ああ、拓哉?」
驚いていた堀田先輩の顔が面白そうに笑う。堀田先輩は、あたしと藤村先輩がつきあっていることを知っている。
なんだか、恥ずかしくなって下にうつむいた。
「そう、ですけど……」
「その様子だと、拓哉来ないんでしょ」
「ええ、まぁ」
歯切れの悪い言葉しか返せない。
堀田先輩はうーん、と唸った後、こちらを見てきた。
「なっちゃん。拓哉の家、行ってみる?」
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