グリストルム

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キロが案内してくれた温泉は、まさに極楽の湯を具現化した様な桃源郷だった。 果実が実林の中に岩風呂が在って、コンコンと湯が流れ込んでおり、源泉掛け流しの素晴らしい温泉と、それと並んだ岩盤は安全に温められて居て昼寝するには最適だった。 お陰で、3日も足を止めてしまい、気を揉むアモンが帰ると言い出さなければ、更に数日はそこに居ただろう。 「仁殿、また何時でもおいで下され」 そう言って見送ってくれたシリニカ族の面々に、何故か嫁ーズが嬉々として"来ます"と約束してたけど、俺は知らんしな。 確かに良い所では有るけど、時間の流れが俺達の世界とは違いすぎる。 向こうで過ごしたのは数日だけど、此方ではすでに数週間が経過してる。 こうした世界毎の時間経過のズレは、うっかりしてると最悪の結果に成りかねない。それこそ気付いた時には浦島太郎って事ににもなるから、今後は注意が必要だろう。 元の世界へ戻り、内陸の交易路が幾つかに分岐する街グリストルムの手前で、アモンはベルゲンの所に残ってる和尚を迎えに行くと言うので、戻るまで待機する事にした。 そしてジェスも、マリアが角を出して居かねないとベルゲンの所へ戻るべく、アモンに付いて行った。 「オルテナント国内にも、温泉って色々有るの?」 「そっか、メイリンとシュアンは、オルテナントの全体を知らないもんね」 「そう言うクレアは、温泉知ってるの?」 「温泉は…ちょっと…」 「イグリンドには、火山の周りに幾つか有るわよ」 「じゃぁ、イグリンドに行こう!」 クレア…誤魔化したな。 「アイラは、何処か知らない?」 「ん〜っ、確か内陸の昔噴火した山の近くに、幾つか…有った様な…。 アメリア様、ご存知無いですか?」 「そうねぇ、グリストルムを過ぎて山岳路の方へ回れば、道すがらに幾つか湯治場が有るんじゃないかな? あそこは元々地熱が高い地域だし、硫黄が取れる所だから、温泉も有ると思うけど」 「何だお前ら、自分の国に幾つくらい温泉が有るかも知らないのか?」 「そう言う仁は、日本の何処に温泉が有るか知ってるの?」 「知ってるってより、日本は火山列島だから、至る所に温泉場が有るよ。 日本は、世界でも有数の温泉大国だからな」 「じゃぁ、日本へ行こう!」 クレア…お前は無理だ、そのうさ耳は絶対に無理だ。 日本に、うさ耳だの猫耳だのが出没したら、全国ニュースに成りかねない。 日本人には、ごく一部の趣味人を除いて耐性が無いからな。
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