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「お、水野いんじゃん。めずらしー」
今日何回と言われた台詞をお冷を持ち上げる仕草だけで軽く返す。
「お前、ほんと全然来ないよな」
そういって空いていた真央の隣に明るい茶髪で髪の短い男が座る。
「藤堂先輩はよく行ってますよね。ヒマそうだし」
「そーそー彼女もいねーしってコラ」
どん、と藤堂は真央を肘で小突くと、にかっと子どものような笑みをこぼす。
「今はいらねーの!女なんてな。女なんて…いらねぇよ」
そう言うとぐいっとジョッキの生を飲み干す。こいつ、ふられたのか、と他人事のように考えていると、勢いよくこちらに詰め寄ってくる。
「お前も呑め!水なんか飲んでんじゃねえよ!」
「うわッちょっと!やめ…おれ下戸なんすよって…むごご」
野球とかけもちしている藤堂の筋力に敵うはずもなく、真央は藤堂が新たに手にした生を文字通り浴びるように呑まされる。くらくらする。アルコール独特の鼻を通って脳を揺らされる感覚におちいる。景色がぐにゃりと歪んで見えた。隣で藤堂が何か言っているが、何を言っているかわからない。くそ、あの女の子とまだ話してないのに。メアド聞きたかったのに。そう思っていると仄かに甘い、酔いそうなほと甘い匂いが真央を包む。嗅いだことがある気がする。そう思ったとき、ぷつりと真央の意識は切れた。
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