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「お前、姿が」
「別に変身していたわけではない。ずっとこの姿だ。貴様の意識に我輩が同じ年頃の女であると思わせていただけだ。まぁ、気づかれるとすぐ解けるのだがな」
「なんだよ、それ」
人間ができることなのだろうか、催眠術と同じようなものなのだろうか。この男の深淵の様な深い闇にも劣らない、赤と青の絵の具を乱雑に、ぐるぐると混ぜたような瞳を見つめる度に引き寄せられるような感覚に、酒で酔った頭がぐらぐらと痛い。金髪の男はすっと手を伸ばして真央の髪の毛を梳く。
「聞いていたよりもうまそうだな。我輩、腹が減っているのだ」
「は…ッ!?」
いきなり男に押し倒される。押さえ込まれている両肩がきしきしと痛み、頭も痛い。真央を跨いで四つんばいになっている男の金髪の先端がさらっと絹のカーテンのように流れて真央の顔の横に落ちる。月明かりが照らす男の顔は不適に笑んでいて、普段は見とれるほどの美貌であるのだろうなあという顔なのに真央の背筋はひやりと冷たいものが這う。声が出ない。
「我輩、最近ロクな飯にありつけておらんのだ。どいつもこいつも生ごみのような味で、腹を満たす以前の問題だとわかるだろう?貴様も賞味期限の切れたドロドロの牛乳など飲まんだろう。いや、下等生物の貴様はそれでもおいしく飲むか?」
ハハッと歯切れよく笑う男を真央は呆然と見つめる。何を言っているんだろうか。それだけがアルコールに蝕まれている真央の脳みそで考えられるただひとつの事柄だった。とにかく、と男が呟くと肩を掴んでいた両手をするすると腕を通って、手首に移動するとぎゅっと押さえつける。ぞわっと背筋を這っていた冷たいものが存在感を増す。
「やめ…」
「貴様という人間は、我輩を喜ばせてくれるのかな?」
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