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「とりあえず、お前何なんだよ」
あの後、男にかまわずにふらふらと風呂場でシャワーを浴び冷静になって、肩にフェイスタオルをかけて戻ってきた真央がベッドのすぐ横のガラス細工のちゃぶ台をはさんで男と向かい合いながら言う。男は電気をまぶしそうに眺めていた。
「我輩はヴァンパイアだ。我が一族は三千年も昔から続いている、由緒正しい血族である」
「まあ、それは…認める」
だって実際に吸われたから。傷口はまったくないし、痕も残っていないのだが、洗面所で鏡を見たとき顔が驚くほど蒼白だったのだ。すると、その吸血鬼はハハッとまたもや歯切れのいい笑いを立てる。
「貴様、面白いくらいに真っ青だな」
「お前のせいだろ!!うっ…」
「あぁ、大声を出すな。貧血で倒れるぞ。フハハハ」
ぐらぐらと揺れる脳の中でこの自分が最大の加害者の癖にそ知らぬ顔で笑う吸血鬼に対する苛立ちが真央の中で渦巻く。
「つーか、じゃあおれもヴァンパイアになっちゃったわけ?吸われたし」
「それはない。仲間を増やすのは我輩ほど強い者になると吸っただけでは人間はヴァンパイアにはならん」
「そっか。そういえば名前は?」
「我輩はウィリアム・フォン・ハーネット。貴様の名など手も足も出んほどに高貴であろう。特別にウィルと呼ばしてやろう」
「いちいち一言多い!」
「貴様はなかなか反応がいいのでつい言ってしまうのだ。許せ、下等生物よ」
「…許してもらう気ねーだろ」
「まあ、そう言うな。貴様も気持ちよかったであろう」
「なっ…!!」
かっと頭が熱くなる。ウィルはその反応を見て満足気に笑うと鋭い犬歯を形のいい唇から覗かせる。
「そう恥じるな、仕方のないことだ。吸血とは…人間からすると物凄く痛いそうなのでな、昔はあまり吸われたがらなかったそうだ。しかし、そうなると我々は命の危機を迎えるということで、進化の末、吸血と同時に媚薬に似たホルモンを相手に注ぐ形になったのだ。だから、吸血には快楽が伴う。そして興奮した人間の血はもう美味くてたまらんのだ。まあ、それにしても果てるのはいくらか早かったな」
「うるせぇよっ!!」
ケラケラと笑うウィルから顔を背ける。するとふっと気になることを思いついた。
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