夏の夜

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◇  俺が吸血鬼狩りを始めてもう二年が経った。父を手伝ってた期間も合わせれば五年になる。初めて実戦に立った時は中学一年だったが今では高校二年だ。吸血鬼を倒すコツも学生生活との両立のコツも掴んだ。昼は教室で授業を受け友達と語らい、夜は恵那と一緒に命のやり取りをする。歪んではいるが、それなりに均整も取れている。 「おはよう誠治。いやー、昨日の大河見た?」    恵那はもともと地元の人間ではない。日本の本部から送られてきた見習いのハンターだ。この街に来る前は彼女の方で吸血鬼狩りの鍛錬を積んでいたそうだが、ある程度の域に達したということで俺の父に師事することになった。父は業界ではそこそこ名の知れた方であるらしい。ことあるごとに、在りし日の父の伝説を恵那から聞かされるが、いくらそんなことを聞いても俺にはただの中年にしか見えなかった。 「いや、まさか、あそこで光秀が裏切るとは」 「いいか大河ドラマってのは大概、歴史上の人物をテーマにしてるんだ。つまり、話の大筋は決まってる」 「だから?」 「その話は馬鹿っぽい」 「なにを!」  昼間の恵那は普通の高校生だ。この通り、適度に馬鹿でもある。しかし、夜に見せる彼女の顔は戦士のそれだ。獲物を追い詰め、戮する狩人の顔だ。あの顔をクロスボウの照準越しに見る者はどんな気分になるのだろうか。しかし、俺が一番恐ろしいのはそれを切り替えることができる恵那自身だ。
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