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入念な柔軟運動をこなした後に木人?の前に立ち、功夫の技をかける。吸血鬼相手にここまで距離を詰めることはまずないだろうが、念には念を入れておく必要がある。
次にポーチからゴム製のナイフを取出し、サンドバッグに向かう。青い布地には焦げた痕がいくつも見受けられる。その痕に向けて軽く切りつける。最初はゆっくりと、だんだん速く。体幹を意識し、重心が崩れないようにしながら。ある程度区切りがついたところで、素早くサンドバッグと距離を取り、丁度人の膝の上辺りを蹴りつける。そうして相手の動きを止めたところで、喉元を掻き切った。
一閃した後、布がぱっくりと口を開き、中から滝のように砂が流れ落ちた。
しばらくして、寿命だったのだと自分を納得させた俺はそこで練習を切り上げた。
居間に上がり夕飯を軽く済ませた後、準備を始める。ナイフ、スモークグレネード、聖水の入った水筒、その他諸々。
「もう行くのか」
寝間着である和服を着た父が声をかける。
「早い方がいいだろ。さっさと済ませて寝たいんだ」
「誠治。殺され、死にゆく者達への敬意を忘れるな。それを蔑ろにした時、お前は吸血鬼以下の存在に成り果ててしまう」
「あれの下? 一体何になるってんだ」
「悪魔だ」
背筋が震えた。父はきっと、悪魔という言葉を人の心を失うことの比喩で使ったのだろう。しかし、その重みはまるで本当に悪魔になるかのように、人ではなくなってしまうかのように響いた。
◇
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