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さて、本題だ――と、藤井がきりだした。
「あなた方は3ヶ月ばかし前、とある事件に関わりましたね。そう、奇妙奇天烈な霊事件になぁ。そうだろう?」
アリスの顔に動揺が出る。藤井の変化に。秘密の露呈に。
「なんで知ってんのよ!?」
あの事件は公にはなっていないはずなのだ。多少の被害は出ていたが、それは単なる事故として警察は誤認している。
「俺は普通の警察ではないのだからな。他の連中は事件のことを事件だとも分かっていない」
「ど、どういうこと?」
「この俺には何もごまかせない。怪事件のことを何故そこまで隠そうとする?」
秘密にしとく理由のなど話せる訳もない、秘密なのだから。それに、この怪しい警官はどうも引っかかる。
「……答えたくないわ」
「もし、俺がそこの死人の旧友だとしたら――そしたら喋るか?」
この警官が『あの人』の旧友の可能性はあった。
藤井は見た感じ、歳は三十代であろう。『あの人』も同じくらいの年である。
だが、仮に藤井が旧友であるとしても、墓に名前を残さないようにした意図を考慮してみれば……
「喋らないわ。まず、あなたが旧友だと証明してくれないかしら?」
藤井はメモ張をめくってから、言った。
「たしかに、それは証明できない。アイツも俺も訳ありだからな。証拠になりそうな物なんか残していない」
「そう。なら、帰るわ。これ以上、話すことはない」
アリスは早くこの場から離れたかった。
彼女は警官に背を向け、霊園の出口に向かう。
藤井は彼女には見向きもせず、胸ポケットから煙草を取りだした。煙草の先に火が灯され、紫色の煙が昇る。
――今、一陣の風が吹いた
風に煽られ届いたのだろう――煙の臭いにアリスは不意に立ち止まる。
(何を悠長にふかしてるのよ。やっぱり、さっきのは冷やかしかしら?)
アリスは、立ち止まり、考える。
(気になる警官だわ。そもそも警官なのかを疑うぐらい異質な人間……
あいつは何かを知っている。だから、放ってはおけない存在だわ。
だけど、関わると絶対に不幸なことがおきる――私の魂がそう囁いているの)
やはり、このまま藤井を無視して帰るべきだろう……
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