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-----鶺 和人------ 雷鳴さんと別れて一度は自室に戻って床に付こうと思ったが、時刻は既に夜明け前。 どうせ、今床に付いても眠れないであろうと判断した僕は敷地内にある道場に来ていた。 普段は隊士により活気や覇気に溢れる道場もこの時間だととても静だ。 壁にかけてある木刀のうち手近なものを取る。 僕は副長助勤の内、下手をしたら新撰組のなかで最も剣術に乏しい。 剣術だけじゃない、柔道、合気道、棒術、他忍の技など数多くの武芸、戦術をかじっている。 しかし、 その内で特に優れているモノがある訳じゃない。 どれも中途半端なうえに亜流となり、武士としての戦術とはかけ離れている。 故に、他の隊士からよく陰口を言われてるのも知っている。 もちろん。 それは仕方ないと思っている。 腰から下げている差料は飾りの様な物だ。 以前、 『貴様は武士の恥だ!』 と誰かに言われた。 僕は自分を武士や侍と思った事は一度もない。 ただ、相手を倒す。 それのみを特化して僕は力を求め続ける。 「…ッ!」 意識を木刀に集中し振る。 ブンッという空気を切る音のみが道場に響く。 僕の頭にあるのは敵を殺 す事だけ。 その為にも、強く、強く、強く!! ブンッ ブンッ ブンッ 何度も何度も振り、耳に届く音。 「おかえりなさい。鶺さん」 不意に聞こえた優しい声。 振り返ると道場の出入口に一人の青年が立っていた。 透き通る様な白い肌、整った小顔に大きな眼がとてもきれいで、いつもは縛っている長髪を今は下ろしている。 「只今戻りました。沖田さん」 彼、沖田総司(オキタ ソウジ)さんは微笑んだ。
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