78人が本棚に入れています
本棚に追加
「随分と遅かったですね、皆鶺さんと雷鳴さんの帰りが遅いって大騒ぎだったんですよ」
「すいません。実は…」
雷鳴さんと夕食を済ませた後、指名手配中の物乞いを見つけて捕らえようとしたが、僕の力不足のせいで時間がかかってしまったと。
そう言うと沖田さんはどこか腑に落ちないという顔をした。
「…鶺さん。それは違うんじゃないですか?」
「?」
「今の説明…正確じゃないでしょう」
そう言い切り、綺麗な顔をずいっと僕の前に出す。
わ…。
思わず内心で緊張してしまう。
間近で見る沖田さんの顔は綺麗過ぎる。
「正確には、雷鳴さんが物乞いをわざと挑発して捕らえるのを遅らせたそうだ」
!
低い声が道場内に響く。
「あ!おかえりなさい。斎藤さん」
沖田さんの視線を追うと声の主が立っていた。
同じ無表情。
鋭い強さを感じさせる眼。
斎藤 一(サイトウ ハジメ)さん。
「あぁ~。やっぱり、そんな事だろうと思いましたよ。鶺さんがたかが物乞い一人捕まえるのにそんな時間がかかる訳ありませんもん」
沖田さんは納得した様な顔でニコニコしている。
「で…すが、最初に言い出したのは僕です。雷鳴さんに責任はありません」
僕がそう言うと斎藤さんは何かを悟り、教えてくれた。
「鶺、心配は無用だ。事が事なだけに、処罰は無いと副長が言っていた。それに、今の事は優長自身が言っていた」
その言葉を聞き僕は密かに安心する。
雷鳴さんに恨まれると後々死ぬほど嫌な思いをする事になるのを僕は知っているから。
最初のコメントを投稿しよう!