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本当に良かった。
「失礼しました。」
雷鳴さんがそう言っているなら、恨まれる事は多分ないはずだ。
不謹慎な事を考えている自分に嫌気がさすが、今そのような事を思っても仕方ない。
「気にするな」
そう言うと、斎藤さんは用はすんだという様に道場から出ていった。
そう思えば、斎藤さんは藤堂さん同様今夜の巡察当番だったはずだ。
おそらく、巡察から戻って来た際、今の話を聞いて伝えに来てくれたのであろう。
疲れているのにも関わらず、斎藤さんに申し訳無い思いやらありがたい思いを感じながら見送った。
「フフフッ、良かったですね。鶺さん」
花の様に沖田さんは笑う。
一瞬、魅入りそうになりながらも僕はうなずいた。
沖田さんは壁にかけてある木刀の所まで行くと、その内の一本を手に取り左右に振った。
……。
僕は黙ってその様子を見続ける。
沖田さんの動作は無駄の無いとても綺麗なモノだ。
「久し振りに、手合わせしませんか?」
「……」
思ってもいない誘いに、生まれた沈黙。
「…。鶺さん、嫌ですか?」
不安そうな表情で沖田さんが僕を見ている。
「いいえ。全く嫌なんて思っておりません、…ですが」
「剣術ではなく、鶺さんは実戦の時みたいに戦って下さい」
優しい声色で告げられた沖田さんの言葉を聞き、僕は口を閉じた。
なるほど。そうゆう事ですか。
「承知しました」
事を理解した僕は、先程まで持っていた木刀を置き、道場の中心へ移動する。
「ハハッ、鶺さんと手合わせなんて本当に久しぶりですね!」
相対する様に移動した沖田さんは笑ったままだ。
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