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けして、低い声であるわけでもないのに藤堂の言葉は一瞬にして周りに緊張を走らせた。
「……」
和人は変わらず無表情のままだが僅に顔が強ばっている様に見えなくもない。
「え、土方君がですか?…うぁ…面倒くさい事になりそうですね…」
ただし、雷鳴だけはさして変わってない。
面倒くさそうに顔を歪めたかと思えば直ぐにへらりとして、
「じゃ、行きましょうか♪」
と歩き出した。
その姿はまるで子どもが元気良く歩いているようだ。
「…でわ、私達は死体の後始末をしてから屯所へ戻ります」
藤堂がそう言った時は、既に他の男が方戸を持って来て死体を乗せるところであった。
慣れた様子で素早く動く彼等を和人はじっと見つめている。
「あぁ~…仕方ないから帰りますよぉ~和人ぉ~…」
気だるく伸びをして歩き出す雷鳴に小さく首を縦に振り、了解の返事をする。
和人自身も歩き出そうとした時、もう一度振り返り藤堂達の方を見ると、ちょうど死体を運びだそうとしていた。
藤堂と目が合うと僅に頭を下げ会釈したので和人も同じ様に会釈する。
頭を下げ、既に小さくなっている雷鳴の後ろ姿を追うために歩き出す。
背後でも幾つかの足音が遠ざかってゆく。
何を思ったのか、和人は再び振り返り藤堂達の背中を見つめる。
彼等は例外なく同じモノを纏っている。
月明かりだけでも十分目立つ浅葱色に、袖の白い山形の入った羽織。
彼等の象徴。
「………」
その姿に、和人はいつも無意識に見入っていた。
「綺麗だな」
誰にも聞こえない声で無意識に呟き、和人はその場を離れた。
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