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―――水郷村に、冬が来た。
この冬休み、漏れは再び水郷村へと戻ってきた。
水郷村の大地を踏みしめ、幼馴染たちとの再開を喜び合った漏れであったが、今となってはそんな感情は消えうせていた。
むしろ、来なければ良かったとさえ思っている。
……この冬、<チキュウオンダンカ>の陰謀はどこ吹く風、水郷村が記録的な寒波に襲われていたからだ。
「寒い……」
さっきから寒い寒いと呟いては身体を震わせるのは、犬―――蒼月洸哉だ。
その言葉通り、腕をさすって体をがたがた言わせていた。
「……」
澄ました猫の方は黒井深。読書をして澄まし顔でいる彼も、やはり本音は寒いらしくさっきから身体が微かに震えていた。
室温は現在摂氏二度。残念ながらこれはストーブをたいた上での温度である。
ド田舎故エアコンがなく、頼みの綱は最早こたつだけだ。
そのこたつの温度も、そろそろつまみで回せる範囲の半分を越えようとしていた。
体感温度を上げるべく、漏れを含め三人ともコートにマフラー、手袋という室内らしからぬ完全防寒装備を身につけているのだが、今日はそれにも関わらず装備を突き抜けて寒さが伝わってくる。
「そらそらー!」
「ひゃあっ、冷たいです!」
「?」
ふと声のした方を見ると、窓の外で狼に竜、それと虎が、寒波をものともせず元気に庭を駆け回っている。
「はわわ、やめてくださいー!」
「辰兄、そっち行ったぞー!」
「うっしゃあ、特大投げつけてやんぜ!」
どうやら、狼、古酉峻が、竜、翠屋辰樹と虎、大島虎彦の格好の的となっている状況らしかった。
「うわ……」
辰兄と虎彦がやんちゃなことは前々から重々承知していたが、これは少々大人気ない。
「……南無」
しかし寒波の強襲のため助けに行くにも行けず、漏れはただ峻君の無事を祈った。
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