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「で、何故なんです?」
「もったいないではないか。こんなに綺麗なテラスがあるのに雑草しか、生えていないのは。それに………いや、なんでもない。忘れてくれ」
……自嘲というにはあまりにも侮蔑を含んだ笑みで、碧海様は笑った。まだ、この人は自分は救われてはいけないなんて思っているんだろうか。あえては聞かないし、聞けませんが。
黙々と作業を進めていると、碧海様が手を止めて唐突に話し出した。
「わっちは一人でいるのが寂しいとは思わないんじゃ。どちらかと言えば、一人のほうが好きじゃ。でも、希に、本当に極希に寂しくなるんじゃ。そんなときに誰かが一緒にいてくれたら良いなって思うんじゃ。それはとっても幸せなことじゃろ」
ーーそうは思わんか?
それは表情に似つかわしくない言葉だった。無垢で、汚れを知らないような顔をして、至極大人びたことを言う。これは悲しいことなんだと俺は思った。
「どうなんでしょうね。俺は寂しさとは無縁でしたから」
俺は人に囲まれて生きてきた。誰もかれもが俺の味方をした。俺に嫉妬や恨みを持っていた人も気づけば仲良くなっていた。ある種、才能とも言えるほど、俺には人が集まった。だから、今一つ寂しいという感情が分からない。
俺が考えている間も碧海様の顔から笑みが消えることはなかった。
「何故だろうな。わっちにも分からんのう」
そういうとどこか遠くを見つめていた。
この時、碧海様は俺の敬語を注意しなかった。いつもなら、真っ先に注意されるのに、そう思いはしたが、あまり気には止めていなかった。碧海様がおかしいのはいつものことだから。
碧海様はいつの間にか作業を再開していた。あぁ、綺麗な顔に土が…。そんなことを思いつつ、手を進める。
俺がいなかったら、この人は一人でこんなことをしていたのだろうか…。
碧海様は一人が好きすぎる。俺が初めて碧海様を見かけたときも一人、佇んでいた。
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