大地の現実

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 嘘だ、うそだ!電話番号を何回も確認して、何回もかけてみる。  その度に流れてくる現在使われておりませんの音声。  俺はその音声を聞きながら昨日のことを思い出した。  いろんな芸能事務所に履歴書と写真を出しても何の連絡もない日々の連続。  それが先日、やっと書類審査が通って、なんと大手事務所のオーディションに参加することができた。  そのオーディションでは感触も掴みもオッケー!で、オーディションが終わり意気揚々とビルから出たところを、急に声を掛けられた。 「君の演技見てたよ~! 是非うちの事務所にきてくれないかな!」  あまりにも違和感なく話しかけてくるもんだから、俺認められた!と有頂天になってソイツについて行って喫茶店に入った。 「いや~! 君の演技全然周りと違って際立ってたよ~! あ、うちの事務所、アースプロダクションって言うんだけどね」  ソイツは名刺をテーブルの上に出してニコニコと語りだす。  名刺には 『アースプロダクション 玉田』 と書いてあった。 「最近、大河の主役やったあの俳優とか、朝ドラヒロインのあの子なんかもうちの事務所なんだよ。聞いたことあるでしょ?」 俺はよく知らないが、大河、朝ドラと聞いただけですげーじゃん!と頷きまくった。 「あいつらも最初は無名だったのに、いきなり主役とか張れんのはほとんどが事務所のおかげ。うちはそういうコネクションが尋常じゃないからさ、それを使えば、君なんかすぐ売れっ子だよすぐ!」 俺は目を輝かせた。 「ここだけの話、今度さ、次回作の大河の主役の枠、うちの事務所でもう押さえてあってさ」  玉田は急にヒソヒソと話し始めた。  俺も近づいて神妙な表情をする。 「そこに誰を入れようか悩んでたとこなんだよ。今若手もめぼしいのがいなくてね。そこで君ってわけだ。どうだい?」 「ももも、もちろん! 俺をお願いします!」 「よっし! で、一応事務所に登録しなきゃいけないんだけどさ、大丈夫?」 「もちろん!」 「じゃあ、これ、事務所の契約書」  玉田は鞄から一枚の紙を取り出すとテーブルに置いた。  パッと見て、すぐに 『登録料:百万』 と書いてある文字に目がいった。
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