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「えっ」
「ん?どうかした?」
「この、登録料って」
「あぁ~うちぐらい大手になるとね、一人の宣伝費に1千万とかかけて売り出しするのよ。でもそんだけかけてもスキャンダルで吹っ飛んだりするとパーになっちゃうでしょ? それの保険金みたいなもので、モチロンそんな事故みたいなことがなければ倍以上の額がすぐ戻ってくるから! 今出てる大河の主役のあの人もみーんな通ってきた道だよ! ね?」
熱く説明してくれる玉田に頷きながらも、でも百万は……と悩んでいると玉田が話し出す。
「実は大河の主役枠の推薦が今日まででさ、俺も焦ってるんだよ。別のたいした実力もないやつが無理矢理スポンサーの意向で決まっちゃうかと思うと俺も悔しくてさ。君は百年に一度の逸材だよ!」
玉田の熱心な口調に俺も熱くなり、決心をした。
「ちょ、ちょっと待っててください!」
俺は急いでATMを探した。
実は先日ハタチの誕生日になった時に、両親からのプレゼントで
「好きに使え」
ということで俺が生まれた年から毎月貯めていたというお金のプレゼントをもらったのだ。
120万。20万は早速細々としたものに使ってしまったため、残りは丁度100万。
この日のために存在した100万だ。これは運命だ。
喫茶店に戻り、100万を入れた封筒を手渡す。
「よし、契約成立だ! 明日、この名刺の場所にきてくれ。大河のプロデューサーも呼んでおくから。キミを紹介するよ! その後すぐ色々なレッスンが始まるから、覚悟しておいてくれよ!」
「はい!」
俺は満面の笑みで玉田を見送り、深々とお辞儀をした。
いやお辞儀してんじゃねえよ!!騙されてんじゃねえか!!
昨日のことを細部まで思いだし、我に返った。
よくよく考えたらおかしいことなんてわかりきっているのに、あの時はオーディションを終えたばかりで高揚して正常な精神状態じゃなかった。
でもどんなに後悔してももう遅い。
お金がなくなった。
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