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実は俺は、俳優修業のために、小劇団に所属しているのだが、そこでチケットノルマのために自分の財布からお金を出し、そのせいで親からの仕送りはほとんど消え、最近では家賃用のお金も修行のために費やしていたので家賃も滞納している。
そこで親からのプレゼントのお金は渡りに船だったのに、それさえも消えてしまった。
これからどうしよう……とフラフラと自宅のアパートに帰ってみたら、玄関扉に貼り紙がしてあった。
『家賃滞納のため契約に基づき家具家電を差し押さえました。貴殿におきましては退去していただきます』
「はっ?!」
鍵を取り出し差し込もうとしても入らない。
ドアノブを回してみても開く気配はない。
とうとう俺は、住むところまでもなくしてしまった。
ヨロヨロとあてもなく歩いていると、どこからか甘い匂いがしてきた。
そういえばお腹が空いたな、と匂いの元を辿っていくと、一軒の喫茶店に辿り着いた。
俺はポケットから財布を出して、400円ほど入っているのを確認すると、その喫茶店に入って行った。
ドアを開けるとカランと音がした。
中には人がおらず、ガランとしていたがカウンターの席に座った。
「いらっしゃいませ」
奥から背の高いスラッとした男の店員が出てきた。チビの俺に対するあてつけか、とやさぐれた気持ちで見つめる。
「牛乳。あとこの甘い匂いは?」
「ロールケーキです。まだ試作段階なんですが、良かったら味見していただけますか?」
店員は水を俺に出しながら笑顔でいう。
味見というからにはタダだろう。
正直お金のない俺には死ぬほどありがたい提案だ。
「食べます」
「はい」
店員は奥に行き、牛乳とロールケーキの乗ったお皿を持ってすぐやってきた。俺はとりあえず牛乳を一気飲みし、ロールケーキを口に放り込んだ。
「うま」
お腹が空いていたからなのかはわからないが、つい口に出てしまった。
実際生クリームが甘すぎず、生地もしっとりしていて柔らかく美味しかった。 一口で食べきってしまったのが惜しく感じるほどだ。
「お口に合いましたか? 良かったです」
「あの、これ店員さんが作ったんすか?」
「はい」
俺は咄嗟に椅子から降り、床に土下座した。
「俺をここで働かせてくださいいいいい!!」
「えっ?!」
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