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確かに気づかなかった。
というよりよく考えたらここ数年、母の姿をほとんどちゃんと見ていなかった。
バカにしたように鼻で笑って母はまたスマホに視線を向けながら話す。
「それで引越しなんだけど、新居はもうあるの。ママの再婚相手いい人でさぁ、娘さんとちゃんと話ができたらいつでもきてくださいって言ってくれてるの」
母の言葉なんてそっちのけで、久しぶりに母をちゃんと見てみた。
昔とちっとも変わらない、綺麗な姿のままだ。
小学生の頃はそんな美人な母が自慢だったが、中学生の最初頃に母にできた彼氏の話を母本人からされてなんとなく母のことを嫌悪してしまった。
それから"けんちゃん"だの"まーくん"だの数々の彼氏がいたようだが、今回再婚するということは、とうとういい人に恵まれたのか。
これで母も普通の母になるのかな?でも……と、母のお腹が目に映る。
「ねぇ芳乃……」
「私一緒には住まない」
母がやっと出会えた、おそらくいい人であろう母の再婚相手と、そして新たに産まれてくる赤ちゃんと一緒に暮らして果たしてそこに私の居場所なんてあるのか。
「お母さんだけ行きなよ。私、一人暮らししてみたいし!」
母は黙ってため息をつく。
母にとってこれは喜ばしい提案ではないのだろうか?
「一人で置いておくなんて向こうの体裁も悪いし……まぁ、いいわ。ちょっと考えておくから」
母は面倒くさそうに言って、立ち上がりソファに横になった。私はテーブルの上の食器を流し台に持っていき、自分の部屋へ行った。
新居はどこなんだろう。なんて行く気もないのに考えた。
数日後母からメールが届いた。
住所が書いてあり、母の昔の知り合いに私を預かってくれるよう頼んでOK貰ったから、そこに住めって内容だった。
それから高校の入学準備など忙しくしていたら結局5月になり、今日になってしまった。
今日、その母の昔の知り合いの私を預かってくれるというお宅へ行く。
なんでも老夫婦で喫茶店をやっているんだそうだ。
新しいところ、新しく出会う人に会う前に、髪を真っ直ぐにして新しくなった自分で!みたいな感じで、今、縮毛矯正をしている。
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