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ある新月の夜。
一人の少年が暗い夜道をただ黙々と歩いていた。
空に瞬く星は月の出ていないのを隠すが如く神々しい光をはなっていた。
しかし、彼はそれに見とれる事もなくただ空よりも黒い舗装されたコンクリートを傍観している。
「寒い」
だれに話しかけるでもなく、口から漏れただけの言葉は横を流れる用水路の音にすらかき消された。
北海道は長万部の5月はやはりまだ寒い。
近くの駄菓子屋の自動販売機に飲み物を買いにいくだけとはいえ、長袖のTシャツの上に何も羽織らなかったのは間違いだった。
彼は、流石の寒さに手のひらに息を吹き掛けようとジャージのズボンから出した。
その手にはギラギラと鈍く銀色に光る、凝ったデザインのブレスレットがはめられている。
悴んだ手のひらに生暖かな息を吐こうとして両手で口を覆うようにした
その瞬間。
ガサガサッ
左前方の草むらから″なにか″が飛び出してきた。
この世のものとは思えない″なにか″は彼をめがけて疾風の如く突っ込んでくる。
たが、彼は逃げることなく右手を凪ぎ払うように左側へと動かす。
すると、目の前に迫って来ていたはずの″なにか″は彼の手が触れてブレスレットが緑色に輝いた瞬間、体中が軋み、液体撒き散らしながらバラバラになったかと思うと一瞬で黒い霧に姿を変えた。
目の前で起きたあり得ないはずの出来事。
しかし、彼は表情すら変えずにブレスレットを一瞬眺めた後、虚空を見つめ声を漏らした。
「めんどくさ……」
一話に続く
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