朔谷くんがやってきた。

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 でも、これ(女性恐怖症)に関しては朔谷自身ではどうにもできないと理解してきた柚流はできるだけ怒気を抑えて声を振り絞った。 「朔谷く~ん。今は、もう放課後だから校内にはほとんど生徒がいないんだぞ~。大丈夫だからこっち来ような~」  まるで子供をなだめるように、笑顔を張り付けながらコイコイと右手を上下に振る。  なのに、朔谷はさらに顔を青くして、これ以上下がれない壁を背中で必死に押す。 「絶対嫌です! ほとんどってなんすか。それに放課後って普通部活あるじゃないですか!」 “それに、柚流先輩信用ならないんですよ……さっき殴ったし…”  最後の小さく呟かれた言葉に、プチっと柚流の何かが切れた音がした。  柚流がフフフと俯いて笑い出す。  その俯いた顔が朔谷の方へ向いた瞬間、恐ろしく歪んだ柚流の顔に「ひっ」と朔谷が声を漏らした。 「人がせっかく下手に出てやってるのに……我儘も大概にしろよ?」  そう言って柚流がズカズカと朔谷に近づき、逃げようとしたその手をガッシリと掴む。  そして、その細い身体のどこから出て来るのか分からない程強い力で朔谷をズルズルと玄関まで引きずる。  もちろん朔谷は全力抵抗している。  体を斜めに傾け、進行方向の逆側へ体重を乗せているのに、抵抗など全く物ともしない柚流の馬鹿力でどんどん玄関近づいていく。 「いやぁああああああっ先輩マジ嫌ですってぇええええ」 「朔谷くんだまれ。うるさい」 「放してくださ…い゙ツツ!! つ~ゥツ!!」  叫び続ける朔谷へ、思いきり腕を振り下ろした。  殴られた痛みで抵抗が緩んだすきに、柚流は自分だけ靴を履きかえると、朔谷に靴を履かせることもさせずに寮の外へ引きずり出す。 「ちょっ! せめて靴履かせてください~ツツ」 「早くいかないと校長が怒るんだよ。それも怒るだけじゃなくて嫌がらせみたいな罰ゲームもついてくることがあるから、困るんだよね~」  そう言って、柚流は朔谷の言葉を無視して校長室まで引きずって行った。
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