朔谷くんがやってきた。

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 生徒会専用の寮は学校の端に併設されていて、一階の渡り廊下で学校とつながっている。  生徒会長の部屋が一番下にあり、副会長がその上の二階に、書記やら会計やらがそのまた上になるように作られている。  しかし、その寮から校長室は真逆の場所にある。ぐるりと外周を回るようにいかなければならないのだ。  勿論、途中で生徒玄関や体育館前を通るので、部活中の生徒に会ってしまったのは言うまでもなく、女子生徒を発見した時の朔谷の悲惨な叫び声は学校中に響き渡った。  やっと校長室までついた時には、朔谷を引っ張ってきた柚流もクタクタで、膝に手を当て頬を紅潮させハァハァと息を荒げていた。  まだ肌寒い時期なのに、汗が頬を伝う。  完璧に制服を着こなすという意地でしっかりと第一ボタンまで閉められているおかげで、とても暑かった。短い襟足から首かけて、流れる汗がツーと吸い込まれていく。  そんな柚流に朔谷はゴクリと息を呑む。 「先輩、息遣いめちゃくちゃエロいですね。……イテツ」  強く殴った筈の柚流の拳は、疲れのおかげで軽く小突いただけになった。 「朔谷くん…マジ引いた…」  “鳥肌が立った”と肌を軽く摩り、柚流はしっかり立ち上がると、目の前の大きな扉を両手で引く。  視界いっぱいに広がる豪華な造りは何度見ても目が痛い。  後ろで朔谷が“うわ~”と驚いた声を上げている。  そうだろ。そうだろ。  俺だってカルチャーショックだったよ。これを初めて見たときは。  やっと共有できることがあったと、少し安心しかけていた柚流だが、朔谷が驚いた理由は柚流の予想とは違っていた。 「ここの部屋だけ学園みたいだ~」  その言葉に柚流はまたカルチャーショックを受けずにはいられない。 「……だけ?」 「そうですよ。最初この学校見たときシンプル過ぎて逆に居心地悪いってなんの……」 「…………」  ハァ……  また深いため息が柚流の喉から這い上がった。  こいつは本当に、和の心をもった日本人なんだろうか?  わびさびなんて言葉絶対知らないだろうな……
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