朔谷くんがやってきた。

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 重い足取りで校長室の中へ入ると、憎たらしい笑みを張り付けた校長が豪華な机に肘を付き、じっとこちらを見つめていた。  年は中年のくせして、容姿はそれに似合わずにとても整っている。黒髪で、長身に合った長い手足。  なによりこの豪華な部屋に居ても全く見劣りしないのだから恐ろしい。  ただ、悪癖のおかげで全てが台無しなのだ。 「柚流君、思ったより遅かったね。君ならあと十分ぐらい早く来ると思ってたのに。待ちくたびれちゃったじゃん」  毎度毎度の嫌味な言葉に柚流の顔が歪む。  それも言っているときに全く笑顔を崩さないあたり吐き気がする。 「…すみませんねぇ」  謝るしか選択権のない柚流は、渋々と言葉を紡ぐが、目は鋭く校長を睨みつけていた。 「お望み通り、連れてきてあげましたよ。この女性恐怖症のホ…」 「あぁあああ! 父さん!?」  柚流が校長へ回りくどい嫌味を言い終える前に、朔谷が言葉をかぶせてきた。 「おい、朔谷くん。俺、まだしゃべり終わって………ええ!?」  お・と・う・さ・ん・?  今言った言葉が終止理解できず、柚流は朔谷と校長を交互に見ながら、口をパクパクさせる。 「おおっ誠。無事にたどり着けてよかったな。お前の事だから生徒玄関まで行ったら逃げ出すかと思ってたのに。あと、お前の叫び声が学校中に響き渡って、それはそれは面白かったぞ」 「ひどっ! 俺だって逃げ出そうとしたけど、柚流先輩の力に敵わなかったんだよ…」  驚いている柚流に構わず、校長と朔谷が何やら会話を繰り広げている。  肩を大きく上下させ、本当に残念がる朔谷。  それを、また面白そうに眺めた校長は、ふと柚流に目を向けた。 「それにしても、柚流君の頬が紅いのは、もしかして誠のせいかな? 柚流君は顔が綺麗だから絶対誠が見たら食べちゃうと思ったんだけど…」  たべちゃう?  イート?  さらりと、さも日常会話のごとく変な言葉が使われたにも関わらず、朔谷くんは全く気にすることなく言葉を返す。
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