朔谷くんがやってきた。

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 ゲイに関しては朔谷くんが変なこと言わなければそれで大丈夫なのだが、女性恐怖症は自我でどうにかなるレベルではない。 「校長先生。この取引はさすがに朔谷くんが不利すぎます。朔谷くんは顔だけはいいんです。転校したら即日女の子に囲まれます。そんなことになれば女性恐怖症を抑えるなんてできるわけがない」  その言葉にピクリと朔谷の身体が跳ねる。  顔だけといわれたのが気に障ったのか、それとも女の子に囲まれると言ったことに強張ったのか。 「君はいつもできないというけど、毎回しっかりこなすじゃないか」  それとこれとは全く質が違う。 「それに、だからこそ君の女装が役立つんだよ。君と誠が転入するクラスは一緒で、席ももう決まっている。真ん中の一番後ろの二席で隣同士になっている」  まだ訳が分からない顔つきの柚流に、校長はさらに言葉を続ける。 「誠だけだと女の子が集まってくるけど、綺麗な顔の君が同時に転校してきて、そして隣で流暢な英語で会話していたとしてたら……絶対に話に入ってこれない。しかも、誠の席の周りは君を含めて男子で固めている。放任主義の俺がここまでしているんだ。めちゃくちゃな過保護だろ?」  ニヤリと笑う顔を、殴りたい気持ちでいっぱいだった。でもこの校長にそんな事ができるはずもない。 「そうそう、君は結局俺の要求を受けることしかできないよね。だって、この学校の融資を受けるってことは、俺の犬になることに等しいんだから。俺にしても、そこまでして融資を受ける理由を聞きたいんだけど……」 「それはプライバシーに反しますから」  しれっと言う柚流に、校長は大きく肩をすくませてみせる。 「ホント、法律って邪魔だよね。俺も、法律が出てこられるとどうにもならないからね」  ずっと笑顔だった校長の顔が一瞬だけ歪むが、すぐにまた憎たらしい微笑みが張り付いていた。  こうなってしまった以上、拒否権なんてない。
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