朔谷くんがやってきた。

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「分かりました。明日から、校長先生の望む通りに動きますよ。朔谷くん、そろそろ顔を青ざめていないで出るよ? さっさとこんな部屋から出たいから」 「あっ先輩っ」  動かない朔谷の手を引っ張り、ドアを開けたところで、校長に呼び止められる。 「柚流君。ちょっとまって、今日のノルマを渡すから」  ノルマ? “(かえで)あの紙持ってきて”  初めて聞く名前に、柚流の足が止まる。キョロキョロと見渡すと、綺麗な顔をした男性が、一枚の紙を持ってこちらに近づいていた。  それも、近くに来るまで分からなかったが、その顔は紅潮して、目が潤んでいる。  時折すごくたまらげな顔をしてブルブルと全身を震わせ、歩き方もたどたどしい。  その様子を見て、柚流は驚愕せずにはいられない。  紙を受け取るくらいまで近づくと、ブブブッという小さな低い機械音が耳に入った。 「あっ…これ……でひぅぅ」 「あっどうも…」  あの校長は……  振り返り、キッと睨みつけると、やはり楽しそうに嗤っていた。 「朔谷くんにはダメとか言っていながら、自分はいいんですね。校長先生」 「楓とは立派なビジネスだよ。金額に見合った分だけ、俺の秘書として働いてもらっている。ちなみに生徒会の仕事をするのも、楓だよ。でも、柚流君より有能ってわけじゃないから、俺が直々に手ほどきしてあげなきゃんだよね。失敗するごとにお仕置きっていうの、いいよね?」  そう言って、校長がニッコリと楓さんに目を向けると、「ひぃっやぁあぁっ」っと一声上げ、その場にしゃがみ込んでしまった。 “こ~ら。ちゃんと立ってなきゃダメじゃん。お仕置き…だよ?”  悪魔か…… 「あっ、柚流君その紙は今日のノルマ。一か月っていう短い期間なんだ。そういうのあった方がいいでしょ?」  確かに、何をしていいのかこれから考える手間を省いてもらえたのは朗報である。  しかし、もっと普通に渡してほしかった。 “ああいうこと”のプレイに付き合わせないで欲しい。
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