朔谷くんがやってきた。

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 そのまま帰ろうと踵を返したとたん、また面倒な奴が口を出してくる。 「あ~! 父さんずるいじゃん! こんな綺麗な人! それに俺好みだし。プルプルして子犬みたい。大丈夫ですか? 俺が助けてあげましょうか?」  いきなり生き生きしだした朔谷に、もうコイツのことなんて放っておこうかと本気で考えた。  しかし、朔谷が楓さんに手を差し伸べようとした瞬間、校長の声が耳を刺す。 「誠。楓に手を出したら、その胸ポケットに入っている写真の奴を俺が犯してやる」  校長のこんなストレートな言葉を聞いたのは初めてだ。それに、いつもより数段低い声にビクッと体が震えてしまう。 「いやぁああ。梓あああああ!」  泣き叫び出す朔谷に、校長は“本気だよ”と追い打ちをかける。  梓。  なるほど。あの写真の男の子が朔谷くんの恋人ってことか……  まぁ、確かに可愛いなあれは。俺とはぜんぜんジャンルが違う… 「あっ、最後に柚流君。君ならいつでも俺の秘書に大歓迎だよ。有能で俺好み」  ニッコリと微笑む校長に対し、柚流もこれ以上ないってくらいニッコリと笑顔を作る。 「絶対に遠慮します。……では失礼します」  泣き叫ぶ朔谷を引っ張り、校長室から出ると勢いよくバタンっと扉を閉めた。 、、、  幸いなことに女子生徒とも遭遇せず、無事に寮までたどり着いたことは嬉しいんだけど……  泣き止まない朔谷を宥めるのに、かれこれ10分以上四角いダイニングテーブルを囲んでいる。 「おーい。さすがに泣きやもうよ……今から取って食われるわけじゃないんだし…」  涙でぐちゃぐちゃな顔は、さすがのイケメンでも見ていられない。 「ほらっ、鼻水拭いて。…テーブルに付けたら許さないよ」  グスグスと鼻をすする朔谷へ、箱ティッシュを投げる。 「いっ」  それはキャッチしようとした朔谷の手をすり抜け、パコッっと軽い音を立てて見事朔谷くんの頭に命中した。  これは本当に才能なんじゃないかと思う……  ただこんな悠長に時間を使っている暇はないのだ。  おもいきり鼻をかむ朔谷にため息を漏らすと、口を開いた。 「とりあえず、ノルマの内容確認しようか……」 「ふぁい」 「しっかり鼻かみなよ……」 「すひぁせん。せんふぁい」 「…………」
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