D.1

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   ./■■■ 「こんにちはー! こんにちはー! こんにちーわー!」  僕の頭が目の前の現状を把握して理解するまでにはしばらくの時間が必要だった。僕は理解不能な事象を一つ一つ整理して、まとめて、インプットを試みる。けれどまず分からない事が、分からなくてはいけない事が、二つほどあった。  一つ、これは僕にとって一番重要なのだけれど、なによりここが何処なのかということである。  ここは──何処なのか?  淡く発光するような白い石膏の大地。そこから森のように生える、バロック様式的な紋様を複雑に彫刻された石柱。 しかし曲線形状のアーチを押し出したようなうねりを見せる青空はどこか偽物的で、その空想的な装飾は見る者に理想化された幻想への願望を仄かに想起させている。 「はろー! はろー! はろはろー!」  そしてこれが二つ目。  親しげに手を振りながら僕の目の前で喚く、このデッサン人形みたいな化け物。間接の代わりに膨らんだ球体。頭髪は生えておらず、木製の皮膚を衆目に晒していて目鼻はない。  唯一口だけは、といっていいのか分からないけど、ヒトでいう口の辺りに大きなばつ印が描かれている。しかしこれは本当に描かれているだけのようで、口腔はどうやらないようだった。  だとすれば、いったいこいつはどうやって発声を行っているんだろう。まあ少し気にはなるが、実際に確かめてみる程でもなかった。  見たかんじどうやらここは現実ではないようだから、僕の期待するような仕掛けはどうせ施されていないと思う。  僕は彼(あるいは彼女)への興味を無くして視線を切った。それよりも僕は石柱の方が気になっていた。なぜならば僕はこういった時代感のある美術品に強く心を動かされる傾向があるからである。 「ボンジュゥール! ボォンジュゥール! ブォォンジュゥー……」 「……。………。…………?」  ──と。  そこで僕の意識センサーが視界の端に小さな違和感を感知した。  そしてそれと化け物が変態を始めたのはほぼ同時だった。  デッサン人形の喚く声が急速に萎んでいく。球体関節の身体が空間ごと渦巻くようにぐにゃりと捻れていく。僕は目を見開いて驚いた。そしてそちらへ視線を向けた。
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