D.1

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 渦の中心に向かって重力が生まれている。僕は日頃重力を意識しながら生活しているわけではないので、“はっきりと肌で感じられる重力"というのは、なんだか不思議な感じだった。少し力を入れないと僕も吸い込まれてしまいそうだった。  回る、廻る。渦の速度は徐々に加速していく。“初めに変化したのは色だった"。色が徐々に変化していた。渦巻き始めた時、その色はデッサン人形(仮)の明るい茶色だけだったが、今は淡く発光ような白が混じっている。その次に灰色。ちょうどさっきの円柱みたいな薄い灰色だ。白灰茶色。三色の気味が悪いマーブル。  気味が悪い。ほんとに気持ちが悪い。  視界が渦を巻いている。まるで荒れた海を渡る小舟の甲板の上に立っているみたいだ。気持ち悪くて吐いてしまいそう。 「……。………あれ?」  そこで僕ははて、と思い至った。何かがおかしい。何だ。立っていられない。両足がふらつく。いや、足じゃない。上。上だ。上半身が傾いている。傾いていた。 「────、ぁ」  いや、これは別に僕がおかしいワケじゃなく。人間は視覚から得る情報が八割というが、それはどうやら本当だったらしいというだけの話だ。なにせここは真っ白な世界。何もなければ上も下も分からない。普通なら。ならなぜ僕はさっきまでそれを認識出来ていた? 浮かぶ問い。回答。それは簡単。ここには指標があった。目印。バロック様式の美しい円柱。だって柱は普通、“真っ直ぐ生えているものだろう"?  渦の中のデッサン人形と“目が合った"。目が合った気がした。先ほど確認した限りでは彼(あるいは彼女)の顔には目鼻が無かったし、仮にあったとしても渦に呑まれて判別なんてできるはずはないけど。だけど僕は見た。あれは。あれは獲物がかかるのを舌舐めずりして待つ化け物の目だ。おそらくあの渦の中が本体なのだ。そしてここ。この世界は、だとしたら餌場──?
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