Alice in nightmare

2/10
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ
午前2時50分に私は目を覚ます。数年も行っていることだから、すっかり起きることに関しては慣れた。いつもの様に私は狭い2段ベッドの上から降りて、下の段で眠っている、私より4歳年下の少女の肩を揺する。それだけでなく、他にも起こさなくてはいけない人が8人はいる。全員が私より年下で、一秒でも長く寝て欲しいからこういう風にしたのだ。何せ、これから私たちは15分の間に洗面をし、パンとジャガイモを一つずつ食べ、2km離れた毛織物の工場にまで、3時20分までに行かなくてはいけないのだ。ゆっくりしている暇は全くない。着替えの時間が無いのだって、眠る時間が惜しいが為に週に三回しか着替えず、直ぐに寝て、直ぐに起きるからだ。 ここに住んでいる子供の数は30人前後で、私たちは孤児だった。イギリス各地では人口が急激に増えているらしく、世話をすることができないことが多いようだった。建物はキリスト教プロテスタント派が運営する孤児院兼教会で、本当なら私たちもお祈りをした方が良いのかもしれないけれど、そうするよりも寝るのが大切だった。シスターや神父様たちもその点に関しては理解してくれているようだった。私は袖を引っ張られたことを感じると、これもいつものように、私の袖をちょんと引っ張った、私が最初に起こした少女の髪を撫でた。この孤児院で一番私と仲が良く、いや、私に懐いてしまっているのが彼女だった。私は物覚え付いた頃からここにいた孤児だったけど、彼女は孤児ではなく、働く為にここに住み込んだらしかった。時折ホームシックで夜に泣いてしまって、他の子の睡眠の邪魔にならないように私がなだめて以来、私の事を故郷の姉に見立てて慕ってくれているようだ。少し気恥ずかしかったけれど、私も嫌な気分ではなかった。彼女が転んで泣いてしまったを慰めたときに、自分の名前はマリーというのだと、赤い目でしゃっくりをしながら名乗ってくれた。 支度を全て済ました私たちは、5分の遅れも許されぬルールを守る為に急ぎ足で外へと出た。季節は冬で、ロンドン特有の濃い霧と雪が私たちの視界を白く濁らせ、手足を痛ませた。とはいえ、各所の工場から吐き出される大量の灰色のガスのせいで空はいつも濁っていたのだから、視界に関しては僅かに白が混ざった程度だった。雪だって珍しいものなんかではなくて、ただ冷たいばかりの嫌味なやつにしか思えなかった。私たちは工場へと急いだ。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!