Alice in nightmare

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工場へと行く道の途中、最近耳にする怪奇の話を今日も耳にした。人々は怖がるように話す。ロンドンで奇妙な死体が幾つも見つかっていて、それらの人たちには共通点は無く、資本家でも労働者でも農民でも、異常な死体となっているのが発見されるようだった。何処が奇妙で異常なのかというと、彼らは皆何処かしらかの内臓が欠如して見つかっているらしかった。元々そうなのではなくて、犯人が持って行っているという。警察官たちも事件の究明を急いでいる様子だったけど、事件が続いているということはどうやら好転はしていないようだ。 とはいえ、私たちに直接の関係は無いはずだと思ってもいた。無差別の連続殺人鬼がいると聞いても、ここはロンドンで、たくさんの人がいる。用心しておいて損はないと思うけれど、そんな確立にばったり合うとは思わない。 そして、私たちが工場の勤めを終え、帰路を歩き出したのは午後11時だった。皆心身共に疲れ切っていたが、元々疲れた表情だった私たちの様子は朝とあまり変わったようには見えなかっただろう。元気の無い表情と言うのが私たちの顔の常だった。ただし、マリーはいつも私の周りをにこにことして回っていた。疲れていないのか、と尋ねたことがあったが、曰くは「辛いけど、灰色のガスに釣られて表情も灰色になったら、心もそうなっちゃう!」と目を潤ませて言われてしまった。そういう趣味はないけれど、思わず無言で抱き締めて頭をわさわさと撫でてしまったのを覚えてる。鮮明に。 その時、子供たちの一人の男の子が私の前に慌てた様子で回り込んできて、私に言った。「マリーの姿が視えない!まだ工場にいるのかも!」。私は今まで来た道を振り返り、遠くで、もう大分小さくなっていた工場の影を見つめた。いつも通っている道だから彼女一人でも帰れるとは思うけど、彼女を一人にして寂しい思いをさせてしまうのは私の良心が許さなかった。私は子供たちに先に帰って、いつも通りに食事を取ってから水で濡れた布で身体を拭き、お祈りをしてから寝て、とジェスチャーで伝えてから、
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