Alice in nightmare

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無音だけが工場の中を満たしていたが、時折ぴしりという鋭い音が響き渡っていた。それから誰かが何かを喋っている様な、叫んでいるようなごそごそとした音も聞こえてきた。私は得体の知れない雰囲気と、得体の知れない音の元凶に不安を感じながらも、マリーの為に一歩ずつゆっくりと、音を立てないようにしながら工場の中を進んでいった。そしてどうやら音の発生源が、工場を見渡せる位置にある二階の事務室だということがわかった。応接室なども兼ねている場所で、ライアンさんがよく仕事をしている場所だった。彼は私たちの遅刻を確認した後家に帰り、9時にまた来てから事務と監視の仕事をして、午後6時には雇ってある大人の人と交代で帰ってしまうけれど。 金属製の階段を上りながら事務室に近づいていくと、あの甲高い音が鞭で人の肌を打つ音だということがわかった。ライアンさんは遅刻した子を鞭で叩くときがある。叫び声の主もライアンさんのものにとても似ていて、グズだとか、ノロマだとかと怒号をあげていた。それを言われながら叩かれている人は泣いているようだった。そして泣いている人が叫んだ。「家に返りたい」と、しゃっくりをして、途絶え途絶えに。私はその声の人をよく知っていた。マリーだった。 私は急いで、当然音も立てないように細心の注意を払いながら階段を上り切り、窓から事務室をこっそりと覗き込んだ。 マリーは両手を縄で縛られた上で、縄は天井に付いたフックに引っ掛けられ、彼女の足は床に付いていなかった。あの時の様に目を真っ赤にしている。そしてマリーの前に立ち、喜々と、いや、あれは、狂喜とした、悪魔みたいな表情を顔に湛えたライアンさんが鞭で彼女の身体を全力で打ち、その度にマリーのぼろぼろの服が裂けて、もっとぼろぼろになっていた。私は恐ろしくて、とてもとても恐ろしくて、目が飛び出そうなくらいにぐぐと見開いてしまって、口が閉じなかった。唖然として驚愕する。これが現実なのかどうかを疑いたかい。
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