Alice in nightmare

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私はどうしたらいいか迷った。いや、悩んだ。彼女を助ける為に中へと押し入ったとしても、非力な私の力じゃ返り討ちにあうことは自明の理だ。しかし今から警察を呼びに行っている間に二人ともいなくなってしまっているかもしれない。警察を呼んだ私にライアンさんは私が現場を目撃した事に気付いて、私をマリ―と同じ様な目に合わすかもしれない。もしかしたら、口封じのために殺されるかも。そうこう悩んでいる間にもマリーは泣き叫び、ライアンさんは鞭でマリーを叩く。悩んでいる時間すら惜しく思えた。こうして見ているだけは嫌なのに、見ていることしかできないなんて、堪えられない。 私は中の様子を伺いながら苦悩していた。そして、マリーがこちらを視た。目が合ったのだ。一瞬にして彼女は黙り、大きく目を見開いた。私は思わず表情を引きつらせてしまった。もうどうなるかは予想できてしまうからだ。予想通りにマリーはまたぼろぼろと大粒の涙を落としながら大声で「お姉ちゃん!お姉ちゃん!助けて!助けて!」と叫び、吊るされた身体を前後に大きく揺らした。ライアンさんが窓越しに私を、グワリ、と見る。視る。私は堪らず後ろからばたりと倒れて尻餅を付き、全身を震わした。今度は私の番だと思った。彼の歪な欲望の的になるか、それとも単に邪魔だから殺されるのかは分からないけど、とにかく最悪な結末だけは確定したようなものだった。 ライアンさんが事務室の扉を開けて、私の腕を片手で掴み、強引に引っ張った私を立たせようとする。腰が抜けてしまった私は立つことができなかった。すると彼は私の頭を思い切り蹴り飛ばした。視界が黒と白に点滅し、重力が逆さまになったような感覚と、遅れて物凄い鈍痛が頭蓋骨全体にあっと言う間に伝幡した。私は涙を堪え切れず涙を流したが、恐ろしすぎる余りに暴れることすらできなかった。声も無かった。彼は首を捻ったが、ああ、と思い出したように言葉を呟いた。 「そういやお前、声が出ないんだったなぁ。」 それは真実だった。
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