Alice in nightmare

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私は生まれつき声が出なかった。それが捨てられた理由なのかもしれない。ともかく私は喋れず、今まではずっと手話とニュアンスだけでなんとかコミュニケーションを取ってきた。孤児院の子供たちが多くいる工場を狙って働ければ、私と意思疎通に慣れている子達以外の誰とも話す必要は今までなかったからだ。彼はにたりと邪悪な笑みを浮かべると、私を無理矢理引っ張って事務室の中へと引きずり込んだ。バタンと勢い扉が絞められる。 そして彼は私に向けて言った。 「こいつをこれから犯してやろうと思ってたんだが、お前の方がスタイルがいい。だが見ての通り俺はサディストでね。泣けない喚けないヤツを無理矢理やっても面白くないんだ。もし、お前が泣き喚けたらお前を犯してやってもいいが?」 ライアンさんは私とマリーが仲がいいことを知っていたらしい。でなければ、こんな事を言って来る訳がない。私は彼の異常な性癖に心底から来る恐怖を感じて震えたが、相も変わらず泣き声だけは出なかった。私は一瞬だけ迷ってしまったけど、意を決して、マリーを守りたい一心で泣こうとする。喚こうとする。 だが5分経っても一向に声は出る様子はなかった。かひゅ、という空気の擦れる音だけだった。ライアンさんは5秒が経つ度にマリーを鞭で叩いた。だけど私は声を出せず、喉を押さえながら必死に息ばかりを搾り出していた。もうここが現実とは思えず、地獄か何かだと思うしかなくなり始めている。家族も知らなくて、貧乏で、頑張って働いてきたのに、どうして世の中はこんなに歪で、灰色なのだろうか。みんな頑張って生きているのに、どうしてこういう人が混ざっているのだろうか。色々考えてしまう。 そしてとうとうライアンさんが私の黒い髪を掴み、顔をぐっと近づけて私に灰色の息をかけながら、 「もういい。あいつを可愛がってやるから、お前は死ね。孤児院の方には工場に勝手に入って、機械に巻き込まれて死んだと言っておく。ついでに金も搾れるしな。」と言った。 私の恐怖心は限界に達し、奥歯はガタガタと震え、視線の焦点は合わなくなる。 その時、どん、という、残響が強く残るような爆発音がした。
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