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side ‡ 瑠一 「いい旅夢気分」を満喫しようと、調子に乗りかけた。 それがいけなかった。 ついさっきまで、リラックスして俺に身を預けていた藍だったのだが、 今じゃ俺を措いてさっさと湯船に浸かり、裸体をすっかり隠してしまっている。 『………………まいったな』 ( 何の地雷を踏んだんだか……それすら解らんとは、俺もまだまだだな ) 湯船の縁に腰掛けて、膝から下だけを湯につける。 窓の外の景色を眺めていた藍は、俺の気配に肩を揺らす。 (どうしたってんだ……?) 場所が公共の場であることから、無理矢理にでも自制したというのに…… 『なぁ、藍……どうした?』 「……め……」 『あ?……めって何だ』 「目ぇ……閉じてろ」 浴槽の端から注がれる掛け流しのお湯の音で、藍の声がかき消されそうだ。 『目がなんだって?』 「閉じてろっつってんだ!」 聞き直したのがマズかったのか、逆ギレ気味に噛みつかれてしまった。 『あぁ、ハイハイ。目を瞑ればいいんだな?』 そう言うと、機嫌の悪いワンコは此方を見ないまま頷いた。 .
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