3320人が本棚に入れています
本棚に追加
side ‡ 瑠一
「いい旅夢気分」を満喫しようと、調子に乗りかけた。
それがいけなかった。
ついさっきまで、リラックスして俺に身を預けていた藍だったのだが、
今じゃ俺を措いてさっさと湯船に浸かり、裸体をすっかり隠してしまっている。
『………………まいったな』
( 何の地雷を踏んだんだか……それすら解らんとは、俺もまだまだだな )
湯船の縁に腰掛けて、膝から下だけを湯につける。
窓の外の景色を眺めていた藍は、俺の気配に肩を揺らす。
(どうしたってんだ……?)
場所が公共の場であることから、無理矢理にでも自制したというのに……
『なぁ、藍……どうした?』
「……め……」
『あ?……めって何だ』
「目ぇ……閉じてろ」
浴槽の端から注がれる掛け流しのお湯の音で、藍の声がかき消されそうだ。
『目がなんだって?』
「閉じてろっつってんだ!」
聞き直したのがマズかったのか、逆ギレ気味に噛みつかれてしまった。
『あぁ、ハイハイ。目を瞑ればいいんだな?』
そう言うと、機嫌の悪いワンコは此方を見ないまま頷いた。
.
最初のコメントを投稿しよう!