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足にかかる湯の波に、藍が移動しているのだと気付く。
(……?)
目を閉じていることで、視覚以外の感覚が鋭くなっている。
―― フゥ……
小さく漏れ聞こえた吐息。どうやら正面に居るらしい。
『ら……ンぅ……?』
それは一瞬の出来事。
膝に掌の感触を覚え、どうかしたのかと尋ねるつもりで口を開きかけた。
だが紡がれた言葉は、藍の口腔内に奪われてしまう。
驚き、薄くあけた瞼の隙間から見えたのは、
夜の暗い浴室のガラスが鏡となって映し出した、
まるで伸びをする様に背を反らし、俺に口付けを繰り出す藍の姿。
さっきまでは調子に乗るなと、ご立腹だったんじゃなかったのか?
「ふ、ぁ、は……ぁむン……」
鼓膜を刺激する甘い声が、浴室に響く。
時折解放される唇の隙間から、その間に紡げなかった言葉を吐き出した。
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