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side ‡ 藍
「すっ…………っげぇぇっ!」
電車から見える景色に感嘆の声をあげて、 隣に座るの瑠一の肩をバンバン叩いた。
「何寝てんだよ、海だぞ瑠一!」
『海くらいで何がそんなにスゲェんだ、少し落ち着け』
言われて気が付く、向かいに座るお婆ちゃんがクスクス笑っていたことに。
(だってスゲェんだもん……)
各駅停車の鈍行列車は、海沿いを走る。
一度は正面を向いて行儀良く座り直したものの、やっぱり気になって躯を捻った。
窓の外に流れる景色は、オレを取り巻くどんな日常とも合致しない。
夕日を浴びてキラキラ光る渚。
遠くまで続く白い砂浜に、波が優しく打ち寄せている。
その先にある目的地をふと思い出し、瑠一に向き直った。
「なぁ、何て祭りだったっけ……?」
『あぁ、……【唐津くんち】だ』
そう、この電車は【唐津】へと向かっている。
瑠一と初めて行く祭り。
オレはもうソワソワし過ぎて、どうにかなりそうだ。
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