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side ‡ 藍
「瑠一、ここ日本海側だよな?」
『まぁ、地図で言うとそうなるな』
余りのオレのはしゃぎっぷりに、瑠一は呆れながらも頷いてくれた。
「日本海って荒波ってイメージがあんだけど……」
―― 想像してたのと違う……
演歌やなんかでよく聴くのは、冬の日本海が荒れてどうとか言うのに、
視界に広がる海は穏やかで、砂浜だって遠目から観ても白に近い。
「こん海はね、玄界灘って言うとよ」
「……え?」
それは、さっきオレの事をクスクス笑っていたおばあちゃんで、
「今は未だ穏やかばってんが、冬ん玄界灘は荒るるとよぉ……?」
(バッテン……?アルル……?)
聞き慣れない言葉に困惑しながらも、その優しい声音についもっと話をしたくなった。
「玄界灘って言うんだ……なんか格好いい響きだな……」
「あら、そがんね?ありがとぉね、唐津っ子の誇りん一つやっけんね。余所ん人に誉めらるっと嬉かねぇ……」
相変わらず所々通訳が要りそうな言葉。
でもおばあちゃんの嬉しそうな顔を見て、オレは胸の辺りがほっこりした。
「あんた達、唐津は初めてね?」
『はい、義姉の勧めで……。』
「そぉねぇ……唐津はヨカ所ばい?……昔んごと人は居らんようになったばってん……城下町やっけんね、人情味もあって、あたぃも好ぃとぉよ」
そう語る口調は、心の底から土地を愛する人のもので、
誰かに自分の好きな場所をこんな風に語れるのが、何だか羨ましかった。
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