2/12
前へ
/277ページ
次へ
side ‡ 藍 「瑠一、ここ日本海側だよな?」 『まぁ、地図で言うとそうなるな』 余りのオレのはしゃぎっぷりに、瑠一は呆れながらも頷いてくれた。 「日本海って荒波ってイメージがあんだけど……」 ―― 想像してたのと違う…… 演歌やなんかでよく聴くのは、冬の日本海が荒れてどうとか言うのに、 視界に広がる海は穏やかで、砂浜だって遠目から観ても白に近い。 「こん海はね、玄界灘って言うとよ」 「……え?」 それは、さっきオレの事をクスクス笑っていたおばあちゃんで、 「今は未だ穏やかばってんが、冬ん玄界灘は荒るるとよぉ……?」 (バッテン……?アルル……?) 聞き慣れない言葉に困惑しながらも、その優しい声音についもっと話をしたくなった。 「玄界灘って言うんだ……なんか格好いい響きだな……」 「あら、そがんね?ありがとぉね、唐津っ子の誇りん一つやっけんね。余所ん人に誉めらるっと嬉かねぇ……」 相変わらず所々通訳が要りそうな言葉。 でもおばあちゃんの嬉しそうな顔を見て、オレは胸の辺りがほっこりした。 「あんた達、唐津は初めてね?」 『はい、義姉の勧めで……。』 「そぉねぇ……唐津はヨカ所ばい?……昔んごと人は居らんようになったばってん……城下町やっけんね、人情味もあって、あたぃも好ぃとぉよ」 そう語る口調は、心の底から土地を愛する人のもので、 誰かに自分の好きな場所をこんな風に語れるのが、何だか羨ましかった。 .
/277ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3320人が本棚に入れています
本棚に追加