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ーーーーサァッ
草木の香りに、湖の香り
嗅ぎ慣れた香りに、酷く安心した。
子供の頃からお母様達の目を盗んで来たこの場所
たくさんの木々に大きな湖
湖の前に太い木が生えている
(あの子と…出逢った場所)
花たちを傷付けないように足を進め、太い木に近付いて
木に自分の額をあてた。
ーまた、此処で逢おうねー
幼い頃の自分と、綺麗な黒い短髪を風に靡かせて笑みを浮かべる男の子
(私の…記憶)
紛れもない、自分のこの記憶に
私は何度か此処に来ては涙を流した。
あの子が、すぐ傍にいる感じがするのに
何度此処に来てもあの子がいない
近くにいる感じがするのに、会いたいあの子がいない事に
涙が自然と流れた。
―サァッッ
また涙が流れると思った時、風と共に嗅いだ事のある匂いに
私は視線を後ろに向けた。
「そこで何をしている、純血の…吸血……鬼」
薄い桃色に光銃口を私に向ける少年が、そこにいた。
引き金を引くのかと思って身構えるも、少年は何故か固まっていた。
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